お知らせ

シェア=国際保健協力市民の会 西山美希先生によるオンライン講義について

 薬科学科1年で行う「社会薬学1」の授業(吉田 林講師)では、先進国と開発途上国の医療格差に焦点をあて、前半ではグローバル化とその問題点、後半ではその問題点を是正しようと試みる人々の働きを学びながら、自らに何ができるかを考えていきます。

 8月11日は第1回~第8回で学んだことを生かして、開発途上国で病気になることの意味をグループワークで理解するオンライン授業を行いました。ご指導いただいたのはシェア=国際保健協力市民の会の西山美希先生です。今回はデビット・ワーナーの「Helping Health Workers Learn(保健ワーカーの学びを助けるために)」の中から「ルイス君のお話」を取り上げました。

 このワークは途上国で破傷風になって亡くなったルイス君の事例を読み、「死」という結果からさかのぼって原因の原因を探っていきます。死の直接的原因は破傷風という生物学的要因ですが、実際には政治、経済、環境、教育、文化など複数の社会的要因が鎖のように絡んでいることに気がつきます。この気づきによって、途上国で病気になることの意味を自国にいながらにして学ぶことができるという優れた構成です。

 参加学生は皆、「ルイスの死」の裏に潜む多様な原因に気がつきました。「ワクチンの接種をしていないだけで死亡の確率が一気に上がってしまい、それだけワクチンは大切なんだと実感した。お話の助産師がワクチン接種を申し出て医師に断られている場面は、その地域の医師の絶対的な立場と他の医療従事者に対する偏見や差別が見えてきた気がした。」「直接の原因は病気であっても、様々な要因が重なって起きた事件であることに気が付いた。またそれで普段の生活でも一面だけで物事を捉えていることに気づかされた。起きた事柄をよく考えて多角度から考察していきたい。」

 また「あなたがNGO職員なら何を行うか」という問いに対しては「物資援助」「村のヘルスセンター開設」「医療者の人材育成」「置き薬の設置」「村人への教育」「交通インフラ整備」「差別の是正」といったアイデアが出され、医療・保健のみならず、貧困、教育、社会基盤、不公正などに対する様々な介入が必要と考えたようでした。

 病気の個人を死へと繋げる物理的、生物学的、社会的な原因の連鎖(Chain of causes)。それを1つずつ切る地道な仕事が『負のループ』を断ち切る方法だといいます。世界の医療格差を小さくするには医療専門家のみならず、様々な分野の人々との共同作業が必要です。その時に地域住民を主体とし、「共に考え、共に行う」プライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care)の精神で支援を行うことがシェアが大切にしている理念だそうです。

 感染症による死は通常、低所得国に多く、高所得国では少ないのですが、今年はCOVID-19感染症のパンデミックで世界中の人々が苦しめられることとなりました。グローバル化した経済活動とそれに伴う開発は人間と自然、動物との距離を縮め、野生動物を介して変異病原体が作られて、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome:重症急性呼吸器症候群)、MERS(Middle East Respiratory Syndrome:中東呼吸器症候群)、COVID-19のような、新興感染症の流行をもたらしてきたと考えられています。ルイス君のワークは、ありふれた途上国での死の原因を追究することで、感染症を構造的にとらえ、その社会的解決が病気の生物学的克服にも繋がることを教えてくれています。COVID-19が猛威を振るうなか、グローバル化の利を得やすい先進国に住む我々は、今まで以上に病気の原因を構造的、多面的に見ることが必要だと考えさせられる授業でした。

2020.10.08
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