横浜薬科大学 大類洋特別栄誉教授の創薬研究成果が結実― 新規作用機序を持つHIV治療薬が日本で承認 ―
横浜薬科大学特別栄誉教授である大類 洋教授(現・学校法人都築第一学園理事)が創製に関わった化合物を基盤とする抗HIV薬が、2026年3月6日(金)、日本において製造販売承認を取得しました。本成果は、基礎研究に端を発する創薬研究が臨床応用に結びついた例であり、本学の研究活動の重要な成果の一つです。今回承認された「イドビンソ®配合錠」は、新規作用機序を持つヌクレオシド系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤(NRTTI)であるイスラトラビルと、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)であるドラビリンを組み合わせた経口配合剤であり、世界に先駆けて日本で承認された治療薬です。
HIV感染症は免疫細胞に感染するウイルスにより免疫機能が徐々に低下する疾患であり、長期にわたる抗HIV療法が必要とされます。近年、治療成績の向上に伴い患者の長期生存が可能となる一方で、長期治療に伴う合併症や服薬継続の負担などが課題となっており、多様な治療選択肢の開発が求められています。
イスラトラビルは、逆転写酵素の転移過程を阻害するとともにウイルスが自分の遺伝情報をコピーする過程に取り込まれた後、すぐにコピーを止めるのではなく、少し先まで作られた段階で複製を止めるという特徴を持っています。この「少し進んだところでコピーを止める」仕組みは「遅延ターミネーション」と呼ばれ、HIVの増殖を抑える新しい作用機序として注目されています。このようにイスラトラビルは、二重の作用機序によりHIVの複製を抑制する新しいタイプの薬剤であり、従来の抗HIV薬とは異なる発想に基づく創薬研究から生まれました。本剤は1日1回1錠の経口投与が可能であり、食事の影響を受けずに服用できることから、患者の服薬継続性(アドヒアランス)の維持にも寄与することが期待されています。
大類教授の研究は、化学・薬学の基礎研究を出発点として産学連携による長年の研究開発を経て、実際の医薬品として社会に提供されるに至りました。この成果は、横浜薬科大学の建学の精神である「個性の伸展による人生練磨」の理念のもと、研究者それぞれの独創的な発想を伸ばしながら社会に貢献する研究を追求してきた結果といえます。また、本治療薬は患者の状況に応じた治療選択肢を広げるものであり、個別化医療の進展にも寄与する成果と位置付けられます。
横浜薬科大学では、今後も基礎研究から創薬、臨床応用に至る研究を推進し、医療と社会に貢献する薬学研究の発展に取り組んでまいります。
・関連サイト 厚生労働省 エイズ動向委員会 年報
■大類 洋(おおるい ひろし)教授 プロフィール
| 横浜薬科大学 特別栄誉教授・理事。生物有機化学・分析化学を専門とし、生体内で機能する分子の設計・合成に関する研究において世界的な業績を挙げている。とりわけ、抗HIV薬「Islatravir」の創製に関与し、新たな作用機序を有する医薬品の開発に貢献した。 |
【略歴】
1942年 東京都に生まれる。
1965年 東京大学農学部農芸化学科卒業、同年 宇部興産株式会社入社。
1966年 理化学研究所入所。
1971年 農学博士(東京大学)。
1981年 東北大学農学部助教授。
1997年 同教授。
2001年 東北大学大学院生命科学研究科教授。
2005年 同定年退職、東北大学名誉教授。
2006年 横浜薬科大学薬学部教授。
2021年 同特別栄誉教授。
2025年 同理事。現在に至る。
【主な受賞・受章】
1974年 日本農芸化学会奨励賞受賞
1990年 井上学術賞受賞
2004年 日本農学賞・読売農学賞受賞
2004年 日本分析化学会学会賞受賞
2010年 日本学士院賞受賞
2015年 瑞宝中綬章受章
【主な社会活動】
日本分析化学会 副会長
同東北支部 常任幹事・副支部長・支部長
年会実行委員長 ほか